ソロ活動と並行して2001年に始めた、仲間を集めた大所帯バンド、チェルシーボロ。このバンドでは人間の原点回帰的な生活を歌う、という自分なりの理想があった。そのバンドが一昨年解散したこと、その挫折そのものが今回のアルバムのインスピレーションになった。バンドは終わったけど、かわりにまた別の反骨精神が僕の中に芽生えた形。そこがこの『ただ可憐なもの』のスタート地点だ。制作は東京と京都を行き来して行われた。
01.本屋の少女に
2009年作。このアルバム用に仕上げた曲で、以前チェルシーボロでやっていた「桃をあげる」が換骨奪胎されている。新しいメロディーがついた途端にするするっと新しい歌詞も出てきた。自分の経験上、創作の苦労がない曲ほどいい曲になる確率が高い。歌詞はいつものように「含み」が多い。本屋の少女とは何者だ。ギター・チューニングは「アイヴィー」や「7(セブン)」でも使ったEADEAE。小島君のドラムの音が強烈。
02.サルベージ船
チェルシーボロでもやっていたインスト・ジャムだが、アレンジには相当手を入れている。優雅なようで不気味、オシャレなようでいてダーティーだ。複雑な表情を見せる曲になった。柿澤さんはトランペットよりも柔らかくふくよかな音が出るフリューゲルホーンを選択した。そこにかぶってくる仲本さんのフリーキーなサックスもいい。コーラスはメロディーを逆から歌って、それを逆回転にしてある。タイトルは昔つけた仮題のまま。今さらどうしようもなかった。
03.神に麻酔を
チェルシーボロでお馴染みの人気曲。2001年作。ギター・チューニングはオープンG。「神」って言葉は便宜上使っているだけで、各々が「信じるもの」に置き換えられると思う。それを麻痺させて生きている人がこの世にはいっぱいいるのだ。そういう歌。レコーディングはクリックなしの1発録りにした。クリックありだと固かったので。アイリッシュっぽい福永君のフィドルが出てくると空気が凛とするな。フルートも見事であります。
04.ウサギの国
旧題は「走れウサギ」で、1998年にジョン・アップダイクへのオマージュのつもりで書いた曲。当初『お先に失礼』(ミニ・アルバム、1999)に収録するつもりで、リズム録音までしたのだが、しっくりこなかったのでボツになった経緯がある。数年後、チェルシーボロのレパートリーとなり、そこで今のアレンジが固まっていった。歌詞は哲学っぽくてシュール。哲学はシュールなのだ。レコーディング前に歌詞を吟味したら、別にオマージュだとは言えなかったのでタイトルはふさわしき形に変えた。
05.ローラーコースターに乗ろう
2009年作。このアルバムの為に書き下ろした。はじめはシャンソンっぽいワルツ曲だったんだけど、最終的には青春ポップな匂いと、ジャズっぽいスウィング感が綯い交ぜになった不思議な感じになった。ラストのインスト部分、録音当初はフェイドアウトするつもりだったけれど、みんなの演奏が丁寧で、その絡み合いが得がたいものだったので全て残すことに。
06.空を切る
このアルバムの為に書き下ろした曲。2009年作。ごくごくシンプルに徹したフォーク・ソング。それだけにフルートの美しさが引き立ったかな。昔から自分の音楽にはフルートが合うと思っていた。でも、天邪鬼な僕はそれを禁じ手にしていた…のだが、今回は絶妙なタイミングで岩下さんと知り合った。これはアルバムの「魂」が彼女を引き寄せたのだ。そうとしか思えないタイミングだった。
07.死ね、名演奏家、死ね
このアルバムの為に用意したインスト曲。2009年作。初めてのリハーサルの時は曲自体が未完成だったので、収録するかどうか微妙だった。僕の場合、そういうケースは極めて稀(歌詞が完全に出来てないと収録曲候補にすら挙がらない)。インストだからその束縛もなく自由にやれたのが良かった。クリックなしの一発録音で1テイクOK。それに少々オーヴァーダブをした。アコギは3弦をEまで下げてます。タイトルは…検索してみて下さい。何故かそのタイトルしか思い浮かばなかったので。
08.ハッピーバースデイ
これは『サイレンサー』(2004)の時から録音しようと思っていたお気に入り曲。1999年作。だけど、周りの曲との兼ね合いでなかなか入り場所が見つからず、正式リリースには到っていなかった。今回のアルバムには非常にしっくり来てる。ギターはGオープン。もう1本はレギュラーで弾いたかな。ドラムは2本。中央は小島君。ジャズっぽいビートが中村さん。こういうアレンジを指示する自分が好き。
09.(ロスト)ウィークエンダーズ
これもチェルシーボロ時代の曲で2003年作。ただし歌詞をソロ用に手を入れ、タイトルはちょっとヒネリを加えた。元々は労働者の苦悩を全面に押し出した歌詞だったんだけど、その辺はぼかした。現実味を削り取ったというよりは、救いの起点となるポイントを残した感じ。より普遍的な内容になったと思う。ギターはGオープン。アコギはレギュラーで弾いた。
10.ボート
2009年作。「不良少女」や「だから、存在して」でも使ったCACFCD#という不思議なチューニングで作られた曲。変拍子メロもあって、どうやって出来たのか自分でもよく分からない。歌詞は今作全体のムードをまとめる役割がある。ここに出てくる男女は他の曲群に登場する男女と、ほぼ同一人物とみていいかと思う。ここから本当の物語が始まる。そういう曲。スタジオではクリックありで、2テイク録った。どちらも良い部分があったのでプロツールズでつなげて、その上にダビングものを加えていった。
11.ただ可憐なもの
2008年作。この曲は夢の中で出てきた。その夢の中では別の人が弾き語りしていたんだけど、目が覚めてよく考えたら、これは自分が作った曲だよなぁと思ってすぐに書き留めた。「イエスタデイ」のようなエピソードだが、本当の話である。だからと言って、自分がポール・マッカートニーのように凄いとは口が裂けても言うまい。ギター、むつかしかった。
ジャケットは元チェルシーボロのアートワーク担当メンバーに頼んだ。すごくシンプルで可愛い作りになっていて、まるで絵本の表紙のようになった。
かかわってくれた皆様、ありがとう。
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